はじめに

あなたのスーパーの売場、なんとなく商品を並べていませんか?
実は、売場設計は「偶然の売上」ではなく、意図された“流れ”が生む成果です。
本マニュアルでは、スーパーマーケットで売上を最大化するために必要な「導線設計・ゾーニング・視認性向上」など、現場で即使えるノウハウを体系的に解説します。
- 「ついで買いを誘発するゾーン配置のコツ」
- 「お客様が自然に歩きたくなる導線レイアウト」
- 「視認性を活かした陳列とPOPの実例」
- 「よくあるNGレイアウトと改善事例」
など、現役の店長・売場責任者・店舗開発担当者にとって必読の内容です。
数字が動く、現場が変わる、“売れる構造”を、今すぐあなたの売場に取り入れましょう。
第1章:ついで買いを生むゾーニングの工夫

なぜ「ついで買い」が売上の鍵になるのか
スーパーマーケットの売上を大きく左右するのが「ついで買い」の発生率です。
メイン目的の商品だけでなく、予定外の商品も手に取ってもらえる仕組みを作れるかどうかで、1人あたりの買上点数は大きく変わります。
この「ついで買い」は偶然ではなく、動線設計・ゾーニング・陳列の工夫によって、意図的に生み出すことができます。
ついで買いが起こる心理メカニズム
人は以下のような心理状態で、ついで買いに至ります:
- 関連商品を見ると、連想で欲しくなる(例:パスタを買う → パスタソースも必要かも)
- 視界に入ったものに気づいてついでに購入(例:牛乳を取る → 隣にヨーグルトがある)
- 時間や手間が省けると感じると一緒に購入(例:レトルトカレーの近くにごはんパック)
これらを踏まえて、店舗側は「連想・視認性・利便性」をゾーニングに落とし込むことが重要です。
テクニック①:主力商品の隣に“関連商品”を置く
売上上位にある主力商品には、自然にお客様が集まります。そこに「関連性の高い商品」を隣接させることで、連想購買を誘発できます。
- 精肉売場の近くに焼肉のたれ、ホイル、野菜
- パン売場の近くにジャムやマーガリン、スープ
ポイントは「料理の流れ」や「使用シーン」を想定してペアにすること。
テクニック②:「動線の交差点」に売場をつくる
お客様の動線が自然に交差する場所(通路の合流点、レジ前、主通路の出入口)には、「ついで買いゾーン」を配置する絶好のチャンスです。
- 試食ワゴン
- セール品の目玉棚
- 新商品や季節品のミニコーナー
お客様が“止まる”きっかけになるような配置がカギです。
テクニック③:セット買いを促すPOPと陳列
商品の隣にあるPOP一つで、「一緒に買う」動機を自然に与えることができます。
- 「この○○と一緒に買う人が多いです」
- 「これ1つでカンタン調理セット」
- 「今なら○○が20円引きでお得」
さらに、カゴに入れるハードルを下げるためには、手に取りやすい位置・量感の調整も重要です。
実例紹介:相乗効果を生むゾーニング
- 牛乳コーナー+ヨーグルト・プリン
- 朝食ゾーンを意識した配置で、まとめ買いが発生しやすい。
- 酒売場+おつまみ・冷凍枝豆・チーズ
- 家飲み需要に即したセット提案で高単価商品をプラス。
- 麺売場+スープ・トッピング・レンジ対応器具
- 時短調理を意識した「全部揃う」棚づくり。
成功している店舗は、ゾーン単位で“生活シーン”を再現しています。
失敗例と改善策:「分断されたゾーン配置」
【失敗例】
- 精肉売場とたれ売場が店舗の反対側
- パン売場の近くに、関連するジャムやスープがない
【改善ポイント】
- 一緒に使う商品は物理的に近づける
- 売上分析を元に「セット買いが多い商品」を洗い出す
- 物理的に難しい場合は、POPや床サインで連携を演出する
ついで買いが与える数値指標への影響
ついで買いを意図的に促すことで、以下のような数値に好影響が期待できます。
【好影響がある指標】
- 客単価(客1人あたりの売上)
- 買上点数
- 棚あたり売上/坪効率
- 粗利率
【悪影響となる可能性がある指標】
- 在庫回転率(商品回転)
- 棚替え頻度・作業負荷
- 顧客満足度(混雑・迷路化)
ゾーニングの設計は「売上重視 × 買いやすさ維持」のバランスが鍵になります。
価格帯による“ついで買いされやすさ”の目安

価格設定は「ついで買いが起こるかどうか」に直結する重要な要素です。
購買心理から見て、以下の価格帯ごとに効果が分かれます。
価格帯(税込) | ついで買い効果 | 解説 |
---|---|---|
〜198円 | 非常に高い | 「値ごろ感」があり、心理的ハードルが低い。菓子・小鉢惣菜・即席スープなどが該当。 |
199〜298円 | 高い | 一緒に買っても負担を感じにくい価格帯。たれ・冷凍野菜・デザート等で効果的。 |
299〜398円 | 普通 | 商品の魅力(パッケージ・POP)が必要。内容と価格が見合っているかが重要。 |
399〜498円以上 | 効果が出にくい | 「高い」と感じやすく、単体購入が前提になりやすい。精肉・チーズなどは値引きやセット訴求が鍵。 |
「ついで買い狙いの商品」は税込298円以内が黄金ゾーン。
それ以上の商品は、割引訴求・比較表示・セット提案を用意しないと、反応率が落ちやすくなります。
まとめ:ついで買い設計は“導線と心理”の融合
ついで買いを生むゾーニングは、「お客様の視点で動線を設計し、購買心理を読み取る」ことが成功のカギです。
単なる商品配置ではなく、シーン提案・連想購買・時間短縮といった視点を取り入れることで、売場は自然と「売れる構造」になります。
ヤオコーのゾーニング設計に関する分析記事(marketing-analytics.site)
第2章:回遊性の高い売場レイアウトの設計

なぜ“回遊性”が売上に直結するのか
スーパーにおける「回遊性」とは、お客様が店内をどれだけ多く歩き、どれだけ多くの売場を見て回るかという指標です。
回遊性が高いと、接触する商品点数が増え、ついで買い・新発見・比較購買が発生しやすくなり、結果として「買上点数」や「客単価」が向上します。
回遊性とは?視線と歩行ルートの関係

お客様は基本的に「右回り」または「主導線に沿って直進」する傾向があります。
そのため、視認性が高く、ストレスのない「自然な導線」を設計することが重要です。
- 人は“迷う”と回遊を止めて出口を探す
- “止まる理由”がある場所には商品を見てもらえる
回遊性は「通路+視線誘導+動線構造」の三位一体で設計すべきです。
レイアウトパターン①:I字型(一本道型)
- 主に小型店舗や間口が狭い売場で採用されるパターン
- 単純明快な動線で商品導線のコントロールがしやすい
- ただし、回遊性は低く、買い逃しゾーンが出やすい
活用ポイント
- ゴール(レジ)に向かう流れを意識して主力商品を後半に配置
- サイド棚に“立ち止まらせる要素(POP・限定品)”を配置
レイアウトパターン②:回廊型(周回型)
- 中〜大型店で多く採用される「外周をぐるっと回らせる」構造
- 自然と全体を回遊しやすく、滞在時間・接触商品が増える
メリット
- 買い逃しが減り、計画外の購買も促進される
- 導線を“面”で設計できるため、ゾーニングと親和性が高い
注意点
- 出口を探して逆流するお客様が増えると、動線が乱れる
- 「一筆書きのように自然な導線設計」が鍵
レイアウトパターン③:メッシュ型・島型
- 棚を縦横交差するように配置し、交差点で商品を露出させる
- 島型は什器を四方から囲ませて立体的に見せるレイアウト
活用法
- 日配・菓子・乾物などのボリューム陳列に効果的
- 「止まって眺める」ことを前提にした商品に向く
テクニック:棚の向き・フェイス数・止まる仕掛け
- 棚の向きは「動線に対して垂直」が視認性が高い
- フェイス数が多いと「商品に勢い」を感じさせる
- 停滞ポイントには試食・季節装飾・POPなどの“しかけ”を設ける
お客様が「止まる → 見る → 手に取る」の流れを作ることが重要です。
成功事例:回遊率向上による買上点数アップ
- 回廊型導入後、買上点数が 1.9点 → 2.6点 に増加
- 出口付近の試食コーナー設置で平均滞在時間が 15分 → 21分 に延長
- 季節フェアを島型レイアウトに変更し、対象商品の売上が 前年比160% を記録
注意点:迷路化・通行量格差のリスクと対策
リスク1:迷路のように複雑すぎる構造
- 高齢者や家族連れがストレスを感じやすく、離脱率が上がる
リスク2:主通路と非主通路の格差
- 店舗の奥や裏側の売場が“通られないゾーン”になる
対策
- 「抜け道」「一筆書き導線」を作ってストレスを軽減
- 通られにくいゾーンに“季節商品・新商品”など興味を引く仕掛けを配置
まとめ:導線設計は“歩きたくなる流れ”の演出が命
回遊性のある売場とは、お客様が「歩きたくなる」「止まりたくなる」「戻りたくなる」ように設計された導線です。
一つひとつの通路・棚・コーナーが意味を持ち、流れるような買物体験を演出することが、売上アップの鍵となります。
参考
スーパーマーケット白書2023(全国スーパーマーケット協会)
第3章:混雑・迷路化しやすいNGレイアウトとその改善策

なぜ「レイアウトの失敗」が売上減や顧客離れを招くのか
売場レイアウトは「売れるための設計図」です。
しかし、構造に問題があると、お客様は「買いにくい」「歩きにくい」「探しにくい」と感じてしまい、購買意欲を削ぐだけでなく、再来店の可能性すら失います。
レイアウトのNG例は、目に見えにくい“機会損失”を日々生み出している可能性があるのです。
NGパターン①:袋小路・行き止まりの売場
通路の終点に商品棚を置いていると、「戻る」しか選択肢がない袋小路が発生します。
- お客様は引き返すのが面倒で、奥まで進まずに引き返す
- 他のお客様と鉢合わせすると、心理的ストレスになる
改善策
- 通路を「ループ」または「一筆書き導線」に再設計
- 壁側にミラーや照明を設置して、奥行き感を演出する
NGパターン②:視認性が悪い「隠れ棚」
以下のような陳列は、「見えない棚」となり、売上の機会を逃します。
- 背の高い棚が連続して死角を作っている
- 主導線から1段奥にある「隠れ売場」
- 商品POPが視線を遮っている
改善策
- 背の高い棚は通路の端に配置、内側は低めの什器を使用
- 商品の前面には「視線を誘導するPOP」ではなく「視線を遮らないPOP」を活用
NGパターン③:通路が狭すぎる or 広すぎる
- 通路幅が狭いと「すれ違いストレス」で離脱者が増える
- 通路幅が広すぎると、棚が遠く見えて商品に気づかれにくい
適切な通路幅の目安
- メイン通路:1.6〜1.8m
- サブ通路:1.2〜1.5m
NGパターン④:レジ前の動線渋滞

- レジ前で商品棚と行列が交差すると、滞留・混乱・回遊阻害が起きる
- 高齢者や子連れの離脱要因になりやすい
改善策
- レジ付近の棚は「低め・狭め」にして導線を確保
- 並ぶ導線を誘導するフロアサインや案内POPを設置
改善テクニック:通路幅・抜け道・棚配置の再設計
- 抜け道を設ける:袋小路対策+回遊性向上
- 棚の高さを段階的に調整する:視線を奪わず見通しをよくする
- 交差点を増やす:動線が一本化せず、混雑の分散に寄与
- 定番棚の手前に「立ち止まり棚」を設ける:流れを止めて興味を引く
成功事例:NG構造を直して売上がV字回復
- 【Before】菓子売場がレジ横の袋小路にあり、通行量が少なく売上前年比85%
- 【After】売場を主通路に沿って移設+アイランド棚に変更 → 前年比132%に回復
指標で見るレイアウト改善前後の比較
指標 | 改善前 | 改善後 |
---|---|---|
通行量 | 約540人/日 | 約730人/日 |
買上点数 | 1.8点 | 2.3点 |
客単価 | 1,050円 | 1,260円 |
滞在時間平均 | 12分 | 16分 |
レイアウト改善は「棚替え」よりもインパクトが大きく、数字に表れやすい施策です。
まとめ:「買いやすい」は「また来たい」に直結する
NGレイアウトは、お客様のストレスを生み、売上の足を引っ張る“見えない要因”です。
小さな動線の詰まりや視線の遮りが、大きな離脱・不満・売上減に直結します。
逆に、「自然に歩ける」「商品が見やすい」「流れが心地よい」売場は、
また来たい・ついでに買いたいという心理を後押しします。
- 『図解 小売業の売場づくり』(日本リテイリングセンター/Amazon書籍ページ)
https://www.amazon.co.jp/dp/4534039743
第4章:視認性を高める商品配置テクニック

導入:売れる商品でも“見えなければ”売れない
どれだけ良い商品でも、お客様の目に触れなければ売れることはありません。
逆に「特別でもない商品」が、見やすく・取りやすく・目立つ場所にあるだけで手に取られることは多々あります。
この章では、視認性を最大限に活かす商品配置テクニックを紹介します。
テクニック①:アイレベル陳列の基本
「アイレベル=買いやすい」は小売業の鉄則です。
アイレベルの目安 | 対象 | 高さ |
---|---|---|
大人の目線 | 一般商品 | 約140〜160cm |
子どもの目線 | お菓子・おもちゃ | 約90〜110cm |
利益率の高い商品・売りたい商品はこの高さに配置することで、売上に直結します。
テクニック②:フェイス数を増やして“主役感”を出す

フェイス数(前面に出ている商品の数)を増やすと、商品が目立ち、「売れ筋」の印象を与えることができます。
- 3フェイス以上あると、注目度が約1.5倍になるという調査も
- 商品に「勢い」「存在感」を出す効果がある
活用例
- 定番品を横並びで展開し、「これを買うべき」という印象を強化
- 新商品を複数フェイスにして“試す価値あり”と印象づける
テクニック③:色彩コントラストとPOPで視線誘導
- 棚全体が同系色で埋まっていると、商品が埋もれてしまう
- 補色・暖色系・蛍光色を効果的に使うことで、視線が集中する
POPの工夫
- 「黄色POP+赤文字」は購買意欲を高めやすい定番手法
- 「白地POP+イラスト」で親しみを演出するパターンも有効
「視認性」=視覚情報 × 配置の工夫です。
テクニック④:ゾーニングと連動させた配置
視認性は単独で設計するより、ゾーン全体としての見せ方で活きてきます。
- 青果なら「旬コーナー+加工野菜+ドレッシング」を一体的に
- 精肉なら「BBQコーナー+たれ+簡易調理グッズ」
目立つ場所に“ストーリー”を持たせて配置することで、購買率がアップします。
テクニック⑤:立ち止まりやすい位置を狙う
- 通路の曲がり角・主通路の交差点などは、自然とお客様が止まるポイント
- そこに目玉商品や新商品を配置することで、高い視認率が得られます
具体配置例:
- レジ前 → 冷菓・小物菓子・期間限定品
- 入り口横 → 特売商品・季節フェア棚
実例:視認性を上げて売上が伸びたケース
- 棚の中段(アイレベル)に新商品を移動 → 前週比138%
- フェイス数を1→3に増加 → 売上160%に上昇
- 通路側にPOPを追加 → 通行者数は同じでも購買率が上昇
注意点:見やすさと“情報過多”のバランス
- POPが多すぎると「何を見ればいいかわからない」状態に
- 陳列が派手すぎると「安っぽい・押し売り感」が出ることも
大事なのは「主役が明確で、補足情報が読みやすい」状態です。
まとめ:視認性は“売れるかどうか”を決める最大要素
売場で最初に商品が勝負するのは「視認性」です。
見られなければ、買われることも記憶に残ることもありません。
棚の高さ・色・POP・位置・ゾーン設計すべてを使いながら、
「見やすく、伝わりやすい売場」をつくることが、売上アップへの近道です。
まとめ:導線とゾーニングが売場の命を握る

「売れる売場」は偶然ではなく、設計された結果
ここまで紹介してきたように、スーパーマーケットの売上を左右するのは、
商品そのものよりも「どこに・どのように置かれているか」です。
売れる売場には共通する要素があります。
売れる売場の5つの共通点
- ついで買いが発生しやすいゾーニング
- お客様が自然と歩き回れる回遊性
- ストレスの少ない導線と動線設計
- 商品が“見える”視認性の高い棚づくり
- 歩きたくなる・止まりたくなる導線マップの活用
これらが噛み合うことで、お客様の体験は「探す売場」から「楽しい売場」へと変化し、
結果として「買い上げ点数・客単価・再来店率」がすべて向上します。
チェックリスト:あなたの売場はできている?
- 目的の買い物をした後、ついでに買いたくなる売場があるか
- お客様がストレスなく回遊できる導線になっているか
- 商品は“見られる場所”に置かれているか
- NGレイアウト(迷路・混雑・死角)になっていないか
- 導線を活かす「通行ポイント」に主力商品が配置されているか
現場で使える!売場改善の3ステップ
- 現状観察:混雑ゾーン・買い逃し・滞留などを観察・記録
- 改善仮説立て:どこをどう変えたら数字が動くかを想定
- 試験導入→検証:フェイス数・配置変更・POPテストなどで数値比較
改善は一度きりではなく、“PDCAサイクルで売場を育てる”ことが理想です。
最後に:売場設計は「お客様へのおもてなし」
導線・レイアウト・棚配置…これらすべては、お客様への無言のサービスです。
お客様が気持ちよく歩けて、必要なものが見つかり、思わず手に取ってしまう。
そんな売場こそが、“また来たくなるスーパー”の条件です。
あなたの売場は、お客様にどんな体験を提供していますか?
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